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【インタビュー記事公開】戸澤采紀[ヴァイオリン] 近衞剛大[ヴィオラ] 佐藤晴真[チェロ] 牛田智大[ピアノ] 11月14日(土)
取材・文:広瀬 大介
ピアニスト牛田智大が2024年から取り組む室内楽プロジェクト。第4弾ではオール・リヒャルト・シュトラウス・プログラムに挑む。並ぶのは10代から20代前半に書かれた最初期の3作と、ヴィオラのために編まれる歌曲の新しい編曲。出演は戸澤采紀(ヴァイオリン)、近衞剛大(ヴィオラ)、佐藤晴真(チェロ)、そして牛田智大(ピアノ)。近衞が1997年、佐藤が1998年、牛田が1999年、戸澤が2001年生まれ。全員が20代である。シュトラウスが若き日に作曲した作品を、1997年から2001年生まれの若き4人が弾く今回の公演について、出演者たちに話を聞いた。
企画の発端 ── ベルリンからのビデオ通話
牛田智大「数年前、私と戸澤さんは同じ時期にローム ミュージック ファンデーションの奨学生になりました。年に一度の奨学生での集まりから帰る電車のなかで話すうち、何かやりたいねということになり「シュトラウスのヴァイオリン・ソナタはどう」と提案をもらいました。とはいえ当時は、そこまで作品をよく知っていたわけではなく、シュトラウスは、ピアニストにとってそこまで近い作曲家とは言えないので、聴いてみようかな、で終わってしまったんです。」
数年後、ベルリンの戸澤の自宅で開かれていたカレーパーティーから、牛田のもとにビデオ通話があった。
牛田「戸澤さんたちは、ビデオの向こうで、みんなで人生ゲームをしながら飲んでいましたね(笑)。ふとした流れから「どのヴァイオリンソナタが好きか」とういうような話になり、戸澤さんがシュトラウスのヴァイオリン・ソナタがどれほど好きで、この作品がどんなふうに面白いか、どんな思い出があるかを語り始めて。それを聞いてふと「シュトラウスを中心にした企画をやってみよう。彼女に引っ張ってもらったら面白そうだ」と思ったのです。ちょうどシュトラウスが作曲したほかの室内楽作品、カルテットやチェロ・ソナタにも興味を持ち始めていた時期だったので。」
翌日には戸澤へ、「シュトラウスの企画をやってみませんか」とメールを送り、そのまた翌日には佐藤へ連絡していた。当の戸澤は、ここまでの展開を予想していなかったらしい。
戸澤采紀「素晴らしいピアニストと弾けるならぜひ、と思っていただけなんですが、まさかこんなプログラムになるとは、想像もしていませんでした。」
ピアニストから見たシュトラウス
先述のとおり、シュトラウスは、ピアニストにとって必ずしも馴染みのある作曲家ではない、と牛田は強調する。
牛田「マーラーは、自身がピアノ曲や室内楽曲を書かない理由について『オーケストラという無限の表現媒体を手に入れた音楽家にとって、ピアノという単一楽器はもはや自らの音楽世界を語るための完全な器になり得ない』と語りましたが、シュトラウスにも近いことが言えるかもしれません。彼自身の音楽的なアイディアは、各楽器のソリストではなく一種の「集合体」で演奏されることを前提としているように感じることが多々あります。集合体での演奏に適しているということは、つまるところ本質的にシンプルであるということで...もちろん技術的な意味では音数も多いし複雑で難しいのですが、根底にはすごく単純で普遍的なものが流れているのではないかと感じます。書法が発達して、文学などからの影響で複雑さが加わっても、根底にあるフィーリングは変わらないのではないかと。」
室内楽作品の書法とヴァイオリン・ソナタ
リヒャルト・シュトラウスの管弦楽は「楽譜の通りに弾けばそのまま美しく鳴るように書かれている」としばしば言われる。では室内楽ではどうなのか。
戸澤「それはまったく違うと思います。オーケストラの曲は、演奏効果もそれぞれの役割もはっきりしていて、全体で合わさると計算された美しさになる。でもこの小さい編成では、フレーズがどこから始まって、どうつながっていくのか、ものすごく繊細にできているんです。」
ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 Op.18 は、その意味で気の抜けない作品であり、そのうえ官能的でもある、という。
戸澤「まるで恋人を口説いているみたいな感じですよね。シュトラウスには《エレクトラ》でハマりました。休憩なしの1時間40分に圧倒され、そのシーズンは3回観に行きましたよ。(このオペラは)おなじライトモティーフが作品の中でどんどん肉付けされていって、その中に人間の業をすべて垣間見るような気がします。」
チェロ・ソナタ ── 初稿と改訂稿の違い
牛田から佐藤には、企画の構想を始めた当初から「初稿で」という相談があった。
佐藤晴真「どれくらい違うんだろうとおもって楽譜を送っていただいたら、全然違うじゃん、と(笑)。出版譜となった改訂稿は、初稿の難しい書法を常識的に整えていますよね。」
牛田「初稿だと、ピアノは演奏不可能に近い箇所がいくつかあるんですよ。10度が連続で出てきたりして。シュトラウスは長身で手が大きかったので。」
佐藤「この曲は、いわゆる「チェロ的」な曲ではないですね。第3楽章は、僕のイメージではオーボエなんですよ。跳躍がすごくあって弾きにくい。《ティル・オイレンシュピーゲル》と通じるところもある。チェロという楽器を借りて、いろんな音色を表現しなければいけない曲だとおもいます。」
第2楽章については、10代のシュトラウスが見せた、異様な成熟にも話が及ぶ。よくこれが書けるな、おまえいくつだよと言いたくなる、と一同で笑い合う。この4曲でいちばん色っぽいのはチェロ・ソナタだろう、と盛り上がった。
ヴィオラのための歌曲 ── 新編曲の狙い
近衞は、佐藤とは会う前からオンライン越しに言葉を交わしていた間柄。戸澤とも大学時代から共演を重ねてきた。ここに牛田が加わり、4人がそろって音を出すのは、今回が初めてとのこと。
シュトラウスにヴィオラのための独奏作品はない。そこで近衞と牛田は、共同で歌曲をヴィオラとピアノのために編曲することにした。
牛田「近衞くん自身の音を、いろんな人に聴いてもらいたくて。戸澤さんが、ベルリンで親しくしている彼を紹介してくれたのですが、彼が弾くシューベルトのアルペジョーネ・ソナタをはじめて聴いたときすごく感動して。音そのものの密度が濃くて、色とか感情とか、そういうものがすごく含められていなと思いました。」
二人は、ヴィオラの、水分を含んだような中間色が映える曲を選びたいという。編曲は歌の旋律を移し替えるだけではなく、ピアノ・パートにあるものをヴィオラに渡したり、旋律を交換したり。作業は現在も進行中とのこと。
近衞剛大「僕もまだどんな曲に仕上がるのか分かりません(笑)。ぼく自身のシュトラウスの偏愛曲は、最晩年、70代後半に作曲された歌劇《カプリッチョ》の前奏曲(弦楽六重奏)と《メタモルフォーゼン》ですね。とくにメタモルフォーゼンは、歌っているところもすごいし、暗いところもある。20分間ずっとあの感じが続くんです。」
初期作品だけで組むプログラムの意義
佐藤「ブラームスの Op.99、100、101 だけを採り上げた演奏会が記憶に残っているんですよね。おなじ時期の曲だけを聴くのは、演奏する側もすごく勉強になりました。その時代にしかない世界観が、どの曲にも通底しています。シュトラウスの初期作品だけでこれだけのコンサートが作れるというのも、なかなかないことですよね。」
牛田「音の配置がそもそもすごく美しい作品なので、それに2時間浸れるのは幸せなことなんだろうな、と。僕たちはいまちょうど、シュトラウスがヴァイオリン・ソナタを書いた年齢とおなじくらい。初期の音楽を聴いて、後期の作品にも興味を持ってくれる人もまた増えたら嬉しいですね。」
戸澤「シュトラウスの若き日の衝動を、フレッシュな状態で聴いていただけると思います!」






